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 テーマが古いことをまずお断りしておく。沖縄・名護市長選で
、米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する新人の稲嶺進氏が当
選してからの平野博文官房長官の発言がひどい。選挙翌日の25
日、会見で「(市長選は)一つの民意としてはあるだろうが、(
移設を)検討していく上においては、あまりそのことも斟酌(し
んしゃく)してやらなければいけないという理由はないと思って
いる」と言い放った。
 鳩山由紀夫首相は選挙前の15日に「市民の思いも斟酌しなが
ら最終結論を出す」と言っていた。否定する必要があると考えた
のだろうか? すぐに「民意無視」の批判が出、他閣僚から自制
を促す声が出た。
 それなのに「合意しないと物事が進められないものなのか」(
26日午前)「法律的にやれる場合もあるだろう。いろんなケー
スがある」(同日午後)「手続きも含めて法律でやらなければな
らない場合もある」(27日午前)などと、平野発言はエスカレ
ートした。
 この人の経歴を調べてみた。1976年松下電器に入社。82
年10月、松下労組特別執行委員となり、83年12月、衆議院
議員・中村正男氏の秘書。中村氏は松下労組出身の衆院議員だか
ら、その秘書は松下労組のエリートコースだ。
 88年7月松下労組政治部長。基本的に社会党支持の同労組が
、民社党や自民党との関係を維持するためにあるようなポストだ
。与党の力を借りたいケースが多いから、自民党との関係を重視
する。
 衆院初当選は96年10月総選挙。松下支配の選挙区・大阪1
1区で無所属を選んだ。まさに「松下党」を名乗ったのだ。98
年2月民主党入りして以後の選挙では「市民派政治」を強調。他
方、民主党代表選などでは、いつも鳩山氏の陣営にいた。
「企業支配選挙区」だから、敗北はあり得ない。だからこそ、市
民派や鳩山陣営を名乗ることができるという計算だろう。その計
算が見事にあたって、鳩山内閣の官房長官ポストを射止めた。1
947年7月まで内閣書記官長で、閣僚でもなかった。その後も
軽量ポストだったが、さいきんは各省庁にまたがる案件の調整役
となるのが官房長官。首相官邸の支配者でもあるから、重要度が
増した。
 平野氏の場合も普天間基地とその代替施設担当で、鳩山政権の
命運を握っている。しかし沖縄の民衆の気持ちをつかむことが前
提条件というポジションだ。政界での泳ぎ方が上手なだけという
平野氏には荷が重かったようだ。
 内閣の失言劇は、おおむね首相や副総理など重要閣僚が引き起
こす。官房長官はスポークスマンとして、失言の波紋が広がるの
を防ぐ役割を果たすのが通例だ。
 前任首相・麻生太郎氏の失言は、鳩山氏よりはるかに多かった
。しかし麻生政権の官房長官・河村建夫氏は、ときに会見で「こ
のような発言は慎んでもらわなければ困ります」とピシャリと言
ってのけた。
 首相発言を全面否定した官房長官もいる。鈴木善幸首相・宮沢
喜一官房長官コンビのときだ。
 韓国の駐日大使が官邸に来て、鈴木首相と会った。首相は「金
大中氏に死刑を執行するようなことがあったら、日韓関係は現在
の良好なものであり得なくなる」と発言した。当時は全斗煥政権
で、その恐れは十分あった。
 韓国政府は、韓国の有力紙一紙にその発言内容をリークし、「
日本の首相が内政干渉」という紙面をつくらせた。当然、その報
道が真実かどうか確認しなければならない。番記者たちが首相に
訊いた。
 鈴木首相は
 「いいかい君たち、私は<死刑執行なんかあったら、日本国民
の韓国政権に対する感情は極端に悪化する。それが日韓関係にも
影響せざるを得ない>と言ったんだよ。間違いではないだろう。
政治は当然、そう動くんだから、大使に予告しておいたのだ。こ
れで、どこが内政干渉なんだね」
 と答えたのである。
 さすがに番記者は電話にかじりつき「首相、内政干渉発言を認
める」といった原稿を送ろうとした。しかし秘書官たちが「送っ
ちゃダメ。オフレコなんだ」などと言って、送稿を実力阻止した
。
 首相発言にオフレコはないから、これは秘書官たちによる実力
行使だっただけである。当時はケータイがないから、送稿できた
社はなかった。
 このてんまつがあったのは昼下がりといった頃で、午後の官房
長官会見のテーマとなった。
 記者クラブ側の質問「本日昼過ぎ、あまりに大物である政府筋
が、昨日の韓国大使に対する首相発言があったという事実を認め
る発言をしました。本人はオフレコと言っていますが、首相発言
の方は韓国紙がすでに報道していますから、オフレコは認められ
ません。私たちは記事にしますから、官房長官のコメントがいた
だきたい」
 宮沢官房長官「大物政府筋とは誰のことか、首相発言を認める
発言とは何のことか、私はまったく認識していません。そんな発
言は何もなかったのではないですか」
 クラブ「そんなことおっしゃっては困ります。大物政府筋は長
官の上にいらっしゃる方です。その方の発言がオフレコになるこ
とはあり得ないのに、秘書官の方々が、半ば以上暴力的に原稿の
送稿妨害をしてしまった」
 宮沢「私はそのような事実を承知していません。この内閣のス
ポークスマンは私です。私はそのような発言はいっさいなかった
と、ここではっきり言い切ります。私のこの発言こそ、内閣の正
式見解です」
 結局、この宮沢官房長官発言によって、鈴木首相最大の「失言
」は報道されないまま、ヤミに葬られたのである。
 このてん末の最大の問題は鈴木首相が、自らの発言こそ「内政
干渉」になるということを、まったく理解していなかったことで
ある。「お粗末」と言えるほどの首相の失言をヤミに葬るために
は、「私の発言こそ、内閣の正式見解」と言い切る必要があった
。
 現場にいた私としては、宮沢氏の迫力に強く印象づけられた。
普段は質問に答えて、「それはですね、コレコレこういうことで
す」と時事問題解説風にレクチャーしてくれることが多い宮沢氏
だが、解説トーンなど消してしまって、独断をおし通すのである
。「宮沢さんはこんなこともできるんだ」と感心したものだ。
 もちろん平野官房長官は、宮沢氏と比べることなど不可能であ
る。「このままでは内閣が倒れかねない。閣僚の人事権は首相が
一手に握り、任命も罷免もできる。泣いて馬謖(ばしょく)を斬
るべし」という論評が目につく。
 ここ2、3年の政界でよく聞く言葉だ。「政治とカネ」問題な
どで追い込まれていた松岡利勝農相を切れなかった安倍晋三首相
、ローマG7(主要7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)終了後の酩
酊会見で恥を全世界にさらした中川昭一蔵相兼金融相を切れなか
った麻生首相などのケースだ。松岡、中川両氏とも自殺などで生
命を失ってしまったのだから、「切った方が良かった」という人
も多いだろう。
 馬謖は名将・諸葛孔明の腹心の部下である。「切るべし」と言
われている21世紀日本の政治家よりはるかに賢いはずだ。まあ
それを言うなら、安倍・麻生・鳩山各氏ら「将」の方を諸葛孔明
と比較すべきなのだろう。「将も卒も、このていたらく」となっ
てしまうのである。おそらく。